松本 加寿美(ビジョントレーニング推進委員会 委員)インタビュー
松本 加寿美
私は公立中学の教師として、一般クラスや特別支援クラスで様々な発達障害を持つお子さんとその保護者さんに出会ってきました。 多くの親御さん、本人さえも「障害=できない事」と当たり前のように思っていますが、そんなことはありません。
「自分にはこんなにできることがある!」 と瞳を輝かせて色々なチャレンジをしていく子供たち。そんな子供たちの姿に感動して時に涙することもある保護者の方たち。私はこれまでとっても感動的で幸せなシーンを一番近い場所で見てきました。
これは一部の人だけに起きる事でも、特別な子供にだけ起こることでもありません。
どの子にもどの親でも経験できる事なのです。
ぜひ多くの方にトレーニングをお伝えしていきたいと思います。
ビジョントレーニング との出会い
~早速ですが、ビジョントレーニングとの出会いについて教えていただけますでしょうか?
松本 ずっと教育現場で障害児教育に携わって来たのですが、通常の学校教育プログラムの中ではサポートしきれない事が多々ありました。例えば、軽度の障害なら経済自立の可能性は高いはずですが、原始反射の保持や感覚過敏があり困難な状況になるケースがあります。この状況を何とか出来ないかな?とアプローチを探し「発達支援」というキーワードにあたりました。中学生、高校生であっても「発達」という観点からの支援方法がある事を知って、その「発達」を学んで行く流れの中でビジョントレーニングに出会いました。
~そうなんですね。
松本 はい。そして、ある方に岸先生をご紹介いただき、MWT協会の講座に参加したんですが、まず最初に自分自身が目を全然ちゃんと使えていなかった事を知りショックを受けました(笑)
~(笑)なるほど。ちなみに最初にアプローチの手法を探し始めてからビジョントレーニングに辿り着くまでは、どれくらいの期間がかかったんでしょうか?
松本 ものすごくかかりましたよ~。5~6年くらいかな?通常の発達支援の手法は、有効ではあっても「その子の不足を補う」という事に物凄く時間がかかり、その子の持っている力をなかなか伸ばしてあげられない。「これじゃあ義務教育が終わるまでに伸ばせない、間に合わない」というジレンマを感じていたので「何か他にあるんじゃないか?」とさまざまな研修や講義などを受けたりしながら探し続けていました。その期間も、それなりに意味はあったと思いますが、ただ実際には「勉強にはなり、知識にはなるけれど、現場でどう使えば良いのか分からない」ということで5~6年、試行錯誤の日々でしたね。
~なるほど。ではビジョントレーニングに出会って、それまでの手法と違うと感じられたのは、どんな所ですか?
松本 「発達支援」に携わった当初は、「この子たちは、いろんな可能性がある!伸ばせるところがいっぱいある!」と思いながらも、なかなかそこにアプローチ出来ない自分がいました。そして発達の中の一つとして視覚=ビジョンがあるわけですが、多くの子ども達に感じていた「独特な物の見方」の先があると分かったことです。
発達支援が必要な子ども達
~それは姿勢などのフィジカルな部分ですか?
松本 姿勢はもちろん、いろんな意味においてです。ただ、それは「その子の個性なんだ」ということで、特に何かアドバイスや指導なども行ってはいませんでした。そして、保護者の方も同じように感じてらっしゃるようでしたが、「障害があるからしょうがない」と、まあある種、あきらめておられるようでした。
~ビジョントレーニングの現場ではよく聞くお話ですね。いろんな課題のあるお子さんへの評価としては、「やる気がない、怠け癖がある、親の躾、家庭環境が悪い」という風に概ね評価されてしまうというような。
松本 そうですね、残念ながら。でもそれは、「分からない」からそう考える他なくなるということです。もし具体的な対策があるならやりたいですし、何よりも子ども自身が、説明は出来ないけども違和感を感じていると思います。子どもが一番困っているんです。いろんな大人から毎回毎回「これはこうしたほうが良いよ!、もっとこうしなさい」って言われ続ければ、「自分はだめなのかな?」という見方になり、人とコミュニケーションすること自体が億劫になってしまいます。「また注意されるんだろうな・・」みたいな。
~なるほど。
松本 でもビジョントレーニングを実践して行く中で「こうすれば良いんだな」というのが分かってくれば、子どもは前向きに取り組んでくれますし、それは指導者も同じです。「今迄教科書やテストなどの字がきちんと読めて、見えてなかったけど読めるようになったよ!」という子どもの声は本当に大きな意味があって、同時にテストなどの点数が上がれば、さらに喜んでいろんな取り組みにチャレンジしようとしてくれます。
~嬉しいですね!
松本 はい!今までいくら勉強しても出来なかったのは、「ちゃんと文字が読めていなかったから」で、その原因は「目がきちんと使えていなかったからだ」「読めたら出来るんだ」という事を子ども自身が認識し、かつ私も認識できることが本当に嬉しくて、さらにやる気になります。ただ、その子が家に帰ってそれを説明すると「あんた、問題読んでなかったの?、何やってるの?」という取り違えた評価になることもあります。
~保護者の認識が足りていないというケースですね。
松本 そうです。なので指導者も保護者もきちんとした認識を持てるような環境になれば、いろんな人が「発達」に対して柔軟な捉え方になり「伸ばせる事がいっぱい出て来るし、褒める事がいっぱい出て来る」と思うんです。子ども達にはトレーニングをどんどん実践してもらい、「出来た!もっとやりたい!」という感覚、経験を積んでもらいますが、ともすれば、それは私と子ども達の間だけで共有している事かもしれないので、支援の環境としては、まだ弱いです。
~なるほど。
松本 でも、子どもが接する多くの大人がある程度の認識を持っていれば、より日常的にビジョン=視覚を磨くチャンスが増えます。もちろん、学校も含めてですよね。いろんな場所や、家庭の日常生活の中で自然に発達を高めて行ける事がとても大事だと思います。
MWT協会のビジョン講座を受講して
~松本さんはMWT協会が開催した「2級~1級~インストラクター」と全ての講座をご受講くださり現在に至っているわけですが、それまで他にビジョントレーニングを学ばれたことはあったんでしょうか?
松本 何故か以前は「ビジョントレーニング=スポーツの事」だと認識しており、自分の活動とはリンクしてませんでした。本当にビジョントレーニングに関して全く知識がなくて、発達支援の現場で採り入れられるプログラムだとは全然思ってませんでした。ただ、発達の勉強をして行くと「視覚」「原始反射」などのキーワードが出て来るので、その中で少しずつ学んでいたような状況でした。
~なるほど。
松本 先ほどもお話ししましたが、「発達に課題がある子たちが独特な物の見方をする」という事と、「何となく斜視の子が増えて来ているのかな?」というか、全体的に目が悪い子が増えて来ているという事もあるから、「一応勉強しておかないといけないな」という感覚でスタートしました。
~実際に受講してみて、いかがでしたか?
松本 まず言えるのは、楽しかったです!本当に楽しかった!何が楽しかったかというと「いろんなトレーニングを体験できる事」でしたね。そしてその体験により、自分の視覚の状況を理解できましたし、それがトレーニングにより、どのように変化するのか?までを講座で感じる事が出来たのが本当に大きかったです。
~講座を担当する岸浩児先生は、もう根っからの現場主義であり「理論、理屈は本やインターネットでいくらでも見れるでしょ?実践しないと!」という方です(笑)
松本 そうですね(笑)今回の講座受講においては、「受講の翌日から現場で使う!」ということを念頭に置いて学び、実際に出来るトレーニングをどんどん実践しました。そういう意味で、すぐに現場で使えるいろんな内容を提供していただけたのは本当にありがたかったです!またいろんなトレーニングを実践した中で「え?これって目のトレーニングなの?」というものも結構あったんですが、結果的には「発達の段階をさまざまな面から考慮した上での取り組みなんだ!」という岸先生の意図を理解できて、改めて感心しました(笑)
~よかったです!(笑)
松本 はい(笑)それに応用がきくんですよね、いろんな組み合わせも含めて。これも本当にありがたかったです。私の行う指導はクラス単位ではなくマンツーマンがほとんどなんですが、やはり「プログラムをやらせる」ということではなくて「この子がどんな取り組みを、今やりたがっているのか?」を理解しつつ喜んで実践してもらい、成果を共有するという岸先生に教えていただいた考え方をベースに実践しています。
~それが子ども達にとっては「やらされる」ではなく「面白そう!やりたい!」という、いわば内発的モチベーションの高まりに繋がるんでしょうね!
松本 そうですね。講座の内容を一言で言うと「理論より実践が大事」という印象ですが、実は絶対に押さえておかないといけない理論はきちんと構築されているので、安心して現場で指導できます。例えば、指導マニュアル通りにやるのではなく、その時の子どもの欲求に対して「今はこの発達の感覚を欲しているんだな」という、子ども主体というか「子どもファースト」であって良いという事が大きな気づきでした。
~確かに運営サイドから見れば、絶対に「指導者ファースト」の方が楽ですし、指導者の皆さまは忙しいので、実際には「マニュアルありき」で進めておられるのがほとんどかも知れません。
松本 そうですね。トレーニングを続けて行く中で子どもの変化を見て取れれば、子どもファーストで実践する意味は必ず理解できると思います。テストの点数としては成果が出なくても、「姿勢がよくなる、字がキレイに書ける、身のこなしがスムーズになる」など、何か変化があるはずなんです。パッと見ただけでは「何してるの?遊んでるだけだよね?」と思われるかもしれませんが、じっくり観察すると「何故、他の支援の方法と比べて変化があるんだろう?」と感じられると思います。
発達とメンタル(脳波)の 関係 ~脳波を計測してみて 分かった事~
~今度は少しメンタルについてお伺いしたいのですが。我々の協会の名前の通り、「メンタルウェルネストレーニング」というのもビジョントレーニングと併せて提案をさせていただいておりますが、教育現場での認識などは、いかがでしょうか?
松本 発達支援の現場で指導をスタートして、最初に考えたのはメンタルの事です。発達に関して何をどうすれば良いのか分からない中で、「メンタルが大事だ」と思ったんです。そして自分自身の学びにもなると思い、コーチングを学びました。これは今も継続していますが、物事をフラットに見る事が出来るような気がしています。例えば、障害を持っている子どもの中で「親にも内緒にしているけど、こんな夢がある!」と話してくれる子がいるんです。ただ、それをうまく言葉などで表現できないんですね。それを聞き出して整理して保護者の方にお伝えする事が、良い流れに繋がっていると思います。
~先日、ニューロフィードバック装置も購入され、すでに実践していただいたようですが。
松本 ビジョントレーニング1級講座の時に脳波計測のデモンストレーションがあったんですが、全然意味が分からないまま、単に面白そうなので測ってもらいました(笑)その時に「右脳と左脳がどうやって動くかが数値化して見れるってどういう事?」と思いました。病気の方とか、凄いアスリートとか、何か特別なケース以外で、普通に簡単に自分の脳がどう動いているかを見れたり、それを見た上で「じゃあ、こんなことをやってみよう!」などとトレーニングしてコントロールできたり、それを可視化できたりするとは思っていませんでしたので、びっくりしました。
~そうなんですね。
松本 右脳や左脳の動きがそれぞれデータとして見れるというのが、とにかくびっくりしました。最初にデモ計測してもらった際に「左脳優位」の結果が出たんですが、自分の中では「何となく自分は感覚的に行動するタイプなので右脳優位なんだろうな・・」と思っていたので、また驚いて(笑)。
~(笑)なるほど。
松本 つまり、自分の感覚と実際に計測した脳波との「ズレ」みたいなものを目の当たりにしてびっくりしたんです。ビジョントレーニングや発達支援などにおいては、いわば「脳をより良い状態にするため」に実践して行くわけじゃないですか。そういう今迄手探りでやってきた事の過程や結果を目で見れるって、凄い事じゃないですか?
~はい。
松本 もちろん脳波は心の状態を見る事も出来るわけですよね?でも、体の状態で心は変わるし、逆もそうじゃないですか?そういう意味で、現在、発達支援で指導している子どもの状態を「目で見れる」っていうことは、子どもにとっても保護者にとっても、もちろん指導者にとっても、本当に参考になると思うんです。取組みを実践する中で、「子どもの脳の使い方が変わった」事を共有できる事は凄く大きな事です。一時的なテストの点数などよりも、一生使える大きな素地というかノウハウを子どもが身に付けることになるんじゃないかと思い、すぐに導入しようと思いました。
~よかったです!まさにMWT協会が目指している「相乗効果」を感じていただいているようで嬉しい限りです。まずは「自分が感じる自分の状態」と「脳波から見る自分の状態」が、きちんとリンクしているかどうかが大事だと思います。実際に計測してみると、ズレを感じる方がことのほか多いので。
松本 何となく理解できます(笑)
~(笑)まずは自分の脳の状態を知り、そこからさらに発展的にさまざまなテーマに沿った使い方が出来るので、ぜひどんどん計測し参考になるデータを共有させてください。例えば親子で2ch計測をするとか、過去の計測では親子であってももちろん別々の脳なのに、かなりシンクロするケースなども見て来ました。
松本 そうなんでしょうね。感覚的によく分かります。今迄対応させていただいた親子の方も含め、「母子一体感」じゃないですけど、波長が共鳴する、しないというのが必ずあると思うので。ぜひやってみます!
今後の抱負
~では今後の松本さんの抱負についてお聞かせ願えますでしょうか?
松本 今迄は「子どもを対象とした支援」などが中心で、多くの方の指導をさせていただき、ある程度、成果もあげてもらえたかと思います。だけど、その子どもの成果を一緒に喜んであげられる大人が増えないと、支援はほんの一部で終わってしまうように思います。せっかく子どもが努力し成果を上げても、それを認めてもらえないような環境だと「支援になっている」とは言えないなと強く感じているので、「温かい発達」というか、「もっとこの子のここは伸ばせる」という目線の、理解ある大人を増やせるような提案を行いたいです。
~なるほど。
松本 岸先生の指導もそうですが、現場で指導しているとトレーニング内容は常に進化して行くというか、進化せざるを得ないというか、常に動いて行きますよね。その進化の仕方は持っている現場によって異なり、受講される方や指導者によって、いろんな形になると思うんです。なので本当に現場でがんばっておられる先生方が講師となる、さまざまなタイプの2級講座を受けてみたいな!と思いますし、自分でも出来るかな?やってみたいな!と。(笑)
~そうですね!日本全国で同時多発的に2級講座が開催されれば、結果として今よりも速いスピードで多くの方に理解していただけるチャンスが増えますし、委員会にて至急討議してみます!
松本 名古屋で開催したいです!ぜひよろしく(笑)!
~ぜひ全国で開催できるようがんばってみます!
読者へのメッセージ
~それでは最後に読者の皆様へのメッセージをお願いします。
松本 私はビジョントレーニングに出会って、まず自分自身が遠視だったことが分かり改善できましたし、子ども達の支援の幅が大きく広がりました。また、同じ目的で受講された皆さんとの意見交換、情報交換が出来た事も本当にありがたかったです。今は小さい頃からスマホやゲームなどが身近にあり、結果として目の悪い子や発達支援が必要な子が増えています。しかし、環境がどうであれ、その子はこれから一生自分の目を使って生きて行かないといけない中で、不要な苦労はせず、自分の力を発揮して行くためにも、ビジョントレーニングを知って欲しいです。そして知ったからには、ぜひ多くの方にお伝えしていただければと思いますし、私も出来る限りの活動を今後も続けて行きます。MWT協会においては、多くの支援者が集える機会を、ぜひ多く作っていただければ嬉しいです!
~出来る限りがんばります!本日は貴重なお話をありがとうございました。
松本 ありがとうございました。